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【ビッグオー】THE ビッグオー 解説:エンジェルという女

【ビッグオー】THE ビッグオー 解説:エンジェルという女

本記事ではTVアニメ「THE ビッグオー」の設定について解説とか考察をしていきます。
ネタバレの配慮などは一切しておりませんのでご注意ください。
またビッグオーという作品自体、製作者が「こう」と確定させていない設定が多いこともご留意ください。


今回はエンジェルという女について。

【ビッグオー】THE ビッグオー 解説:エンジェルという女

確定していること



まずはエンジェルの設定について確定していることから

キャラクターの基本設定は26歳の女性。
ただしこれはあくまで『ビッグオー作中』の設定であって、
現実世界のエンジェルが同じ年齢であるかはわかりません。


他作中で判明していることは
・メモリーそのものである
・ビッグオーという演劇の作者
・作中唯一の現実世界の住人


オフィシャルガイドのインタビューで確定していることは
・ビッグオーはエンジェルというクリエイターが自分の創ったキャラであるロジャーに恋をした話
・クリエイトした世界にサイコダイブしてしまっていた
 =サイコダイブした状態が作中のエンジェル


因みに監督の片山一良氏とシリーズ構成・脚本の小中千昭氏の間ですり合わせはされてるそうですが、
小中氏にとってビッグオーが『エンジェルの創ったお伽噺である』というのは解釈の一つでしかないそうです。
ゴードンがそう言ったからそうなんじゃないか、ぐらいとのこと。

【ビッグオー】THE ビッグオー 解説:エンジェルという女

クリエイターとしてのエンジェル



ではクリエイターとしてのエンジェルは何をしていたのか。
そしてここから書かれることは全て私の中の解釈の一つに過ぎません。
私がビッグオーという作品を見てこう感じた、という内容に過ぎないのです。


で、取り敢えずエンジェルさんは劇を創っていたわけです。
ただ創ったとは言っても決めたのは話の大筋だけで、後はAI的なものが自動的に演じてくれる何か。
だと私は思っています。

つまりロジャー達はエンジェルの描いた脚本をなぞっていく存在ではありますが、
それぞれが『自分』を持ち、各々が考え動くことで物語になっていく存在だと。

それを外から眺めていたのがクリエイターのエンジェルだということです。

しかしそうやって生活するキャラクター達を見ていたら、
いつの間にかロジャー・スミスというキャラクターに恋をしてしまい、さぁ困った。


ホントはロジャーの近くに行きたいんだけども、そこはクリエイターのプライドとして行かなかったわけです。

オフィシャルガイド P.98 片山氏のインタビューより


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R・ドロシー・ウェインライト



それで自分の代わりにロジャーの側にいる存在としてドロシーを創ったんですが、
逆に彼女の存在に嫉妬してしまったことで自己矛盾を抱え、
結果、自分がクリエイトした世界にサイコダイブしてしまった。

オフィシャルガイド P.98 片山氏のインタビューより



というわけで、R・ドロシー・ウェインライトは
エンジェルがロジャーの側に置くために創ったキャラクターだということです。

自分の代わりに置いたということは当然、ロジャーからは優しくされるように設定されたキャラクターだったわけですが、
じゃぁロジャー・スミスという割と怒りやすい人が空気読まないアンドロイドをどう扱うか。

結果夫婦漫才繰り出すような間柄になってしまい、なんやねんあれ羨ましいと。
私もロジャーの側に行きたい。そうするとドロシーも結構邪魔。

なんて思いながらサイコダイブしたら、ちょっとロジャーに辛辣に当たるキャラになるし、
でも本当は優しくして欲しいけどプライドが許さないから素直じゃないキャラになるし、
最終的にはドロシーを見捨てそうになるしそんな自分が嫌になるわと自己否定も肥大化。

結果として最終話近くではあんなボロボロの精神状態になっていたわけです。
インタビューで述べられていますが、自分を悲劇のヒロインになるように設定してる部分もあったようです。

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Act:3とAct:7のエンジェル



ファースト・シーズンにて大々的に登場するのは3話と7話。
個人的な見解ですが、初登場である3話はまだサイコダイブしきってなかったんだと思います。

7話はもうダイブしきってる状態で、完全にビッグオーという作品の一登場キャラになってしまったのでしょう。
クリエイターとしてのシガラミをすっ飛ばして楽しんでいる気さえします。

潜水ポッドをロジャーから掠め取って追いかけられる口実にするとか、
海底都市で二人きりで過ごすとか。

ただ作品の進行を担うはずの人物が外からコントロールできないということは、
作品がどんな変な方向に転がったとしても修正が効かないということです。

このままじゃ作品世界が滅んでしまわないか。
それ即ちエンジェルという人物の意識も作品と一緒に消えてしまわないか。

当然それを防止するための策もあり、
そんな時に現れたのがヴェラという存在。

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ヴェラとの関係



初登場の際にはユニオンの構成員として紹介されるヴェラ。
ヴェラ自身は12号で、エンジェルは340号。

最終話直前の説明では、ヴェラもエンジェルもゴードンが創ったトマトの一つであり、
ヴェラはエンジェルの母親を演じていたのだと。

となっていますが設定から言えばこれは真っ赤なウソ。
ゴードンのトマトだったのはヴェラだけ。

オフィシャルガイドのインタビューでは
エンジェルが創作世界から現実世界へ戻るためのフェイルセーフを起動させるための役回り、とのこと。

つまりハマりかけていたエンジェルを正気に戻したり、
ここが造り物の世界だとわからせるための役者。

なのでヴェラはエンジェルの母親でもなんでもありません。
母親っぽくなってるのはエンジェルが自分自身にショックを与えるための設定を構築したらこうなったという話。
※現実世界の母親を模している可能性はあります。

因みにこの辺り、オフィシャルガイドから推察すると結構後付っぽいです。
それをうまいこと纏めたのが最後の設定になったよう。

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最終的な話



ではAct:26の最後の場面はどのような内容なのか。
これについてインタビューではこのように触れられています。

メモリーの世界に囚われるのを阻止するために世界そのものをリセットしようとするエンジェルと、
これを食い止めようとするロジャーという構図

オフィシャルガイド P.98



つまりエンジェルは創作上のキャラクターに恋をしてしまい、
想いが高まってサイコダイブまでしてしまった作品は危険だと判断。
これをなかったことにしようとしたわけですね。

そしてこういう流れになってしまった以上、エンジェルがもう一度物語を作ることはないでしょう。
即ちロジャー達創作上のキャラクターも二度と生まれることはないということ。

それを止めてくれ(正確には役者が独り立ちしても良い)とゴードンに依頼されていたロジャー。
その最後の交渉は以下の通り。

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ロジャー・ザ・ネゴシエーター



人にとってメモリーは大切なものだ。
それがあるから人は自分の存在を確認できる。
それが失われれば人は不安から逃れられない。

だが聞いてくれ。
今ここに生きている人間は、決して過去のメモリーだけが形作っているものではない。

中略(ロジャーについての部分)

私のメモリーの中にある君を私は決して失いはしない。

中略(エンジェルについての部分)

君自身の存在を否定してはいけない。人として生きるんだ。



どういうことか。
ここからは私の解釈になりますが


メモリー、つまりクリエイターと演者という役割は大切なもので、
その壁を無くさないことにはエンジェルはロジャーの元へ行けなかった。
クリエイターとして演者(創造物)に恋をするなどおかしな話だから。

しかし誰でもそうだが、記憶を失くしてはとても不安になる。
自分自身を確立することができなくなる。
故にサイコダイブしたエンジェルは自分を確立できずに不安に駆られていた。

しかし今この作品世界で生きている人間は
エンジェルの設定した役割だけが形作っているものではない。

それぞれが自分の意思を持ち行動したことで、既に生命体として存在しているに等しい。
それはロジャー・スミスも同様なのだ。

そしてロジャー・スミスという存在はエンジェルのことを忘れはしない。
ロジャー・スミスという存在はエンジェルをクリエイターではなく一人の人間としてみている。

それと同じことがエンジェルにもできるはずだ。
例え自分の創造した作品の登場キャラクターだったとしても、
それに恋をしてしまったとしても、その気持ちを否定してはいけない。

クリエイターだから創造上のキャラクターに恋をしてはいけないなど考えてはいけない。
エンジェルという人間はロジャー・スミスに恋をしたのだ。
それは列記とした『人間』の行動だ。

だからそのままでいていいのだ。


ということではないかと。

そしてエンディングでは、エンジェルはまた物語を紡ぐこととした。
今度は自分もその作品の登場キャラクターとして、恋をした男の側で一緒に。


自分の中ではこういうことではないかなと思っています。

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最後のロジャー・スミス



現実世界のエンジェルの肩を叩いたロジャーは一体何なのかという疑問。
小中氏のインタビューでは『二次元の反逆でもいいし、エンジェルの幻覚でもいい』としています。

私としても以前は「作品世界のロジャーのモデルとなった現実世界のロジャー」だと思っていたのですが、
考えてみると案外エンジェルの幻覚でも良いような気がしてきました。

作品世界の人間だと思っていたロジャーが、
現実世界の自分の肩を叩けるほどの『人間』だと認識できた証として。


というわけでこれがエンジェルというキャラクターのすべてです。
次回はそんなエンジェルを現実世界に引き戻す切っ掛けとなったゴードン・ローズウォーターについて。